中国ロボット産業、「見せる」段階から「働く」段階へ 北京で展示会と人形ロボット競技会
中国では今週、ロボット産業をめぐる大きなイベントが相次いでいます。北京では「2026年世界ロボット大会」が開かれ、杭州のロボットメーカー、宇樹科技(Unitree Robotics)は上海の科創板に上場しました。さらに22日からは、世界人形ロボット運動会も始まります。展示会、株式市場、スポーツ競技が重なる今回の動きは、中国のロボット産業が研究室での実験や派手な実演から、実際の工場や店舗で働く段階へ移ろうとしていることを示しています。

300社超が参加、3000点以上を展示
世界ロボット大会は8月19日から23日まで、北京市南東部の亦荘地区で開催されています。中国の新華社によると、今年は国内外の企業300社以上が参加し、展示品は3000点を超えます。前年に比べて参加企業は69%増え、初めて披露される新製品も300点以上に上ります。
会場では、荷物を毎時1000個以上仕分ける物流ロボットや、段ボールを折って梱包箱を作るロボットハンドが紹介されています。自動車工場を想定した展示では、人形ロボットが金属部品の搬送や積み下ろしを行い、物流分野では商品のピッキングから移動、梱包、配置までを一連の作業として自律的に進めるシステムも披露されました。
家庭向けの掃除や接客、コーヒーの提供、感情的な交流を意識したロボットも登場しています。会場ではロボットのカメラマンや案内係が来場者を手助けするなど、ロボットを「見る」だけでなく、実際にサービスを受ける場面も設けられています。
今回目立つのは、完成したロボットだけではありません。高性能センサー、器用な手、関節モジュール、AIチップなどの部品メーカーも存在感を高めています。中国のロボット産業は、ロボット本体を作る企業だけでなく、部品、ソフトウエア、データ、保守サービスを含む産業のエコシステムへ広がっています。
中国製の人形ロボット、世界出荷の97%超との調査
中国工業情報化部によると、中国の一定規模以上のロボット関連企業の売上高は、2025年に3000億元(約6兆6000億円)を超えました。過去5年間の年平均成長率は20%を上回り、2026年上半期の売上高も1655億元で、前年同期比24.5%増となりました。
また、調査会社Smart Analytics Globalのデータでは、2026年上半期の世界の人形ロボット出荷台数は約1万9100台で、中国メーカーの比率は97%を超えました。 ただし、ロイターが紹介したIDCの推計は中国の比率を82%としており、調査対象や「出荷」の定義によって数字が異なる可能性があります。いずれの数字からも、中国企業がこの分野で大きな存在感を持っていることは読み取れます。
中国政府は、AIを搭載して周囲の状況を認識し、身体を動かして作業する「具身知能」を将来産業の一つに位置付けています。新華社によると、2025年3月にはこの言葉が政府活動報告に初めて盛り込まれました。
宇樹科技の上場が示した投資熱
大会の開幕と同じ8月19日、四足歩行ロボットや人形ロボットで知られる宇樹科技が上海の科創板に上場しました。新華社系の英語記事によると、株価は発行価格150.80元に対し、初値が1100元となり、629.44%上昇しました。 ロイターは、個人投資家の応募倍率が8000倍を超えたと報じています。
この株価の急上昇は、投資家の期待の強さを示す一方、産業が実際に収益を生み出せるかが問われる局面に入ったことも意味します。ロイターによると、中国ではホテルの料理配送や一部の組立ラインなどでロボットの導入が始まっていますが、幅広い産業で大規模に普及したとはまだ言えません。
競技会は「速さ」から「仕事の能力」へ
8月22日から26日までは、北京の国家速滑館「氷絲帯」で第2回世界人形ロボット運動会が開かれます。北京市政府によると、5日間で51種目、1301試合が予定されています。競技は短距離走、サッカー、武術、ダンスなどに加え、ホテルや緊急対応を想定した作業、豆をつまむ、ねじを締めるといった細かな手作業にも広がります。
ロイターは、梱包・倉庫作業、工業組立、部材供給、小売・オフィス業務、電気自動車の充電、ケーブル接続や工具の使用などが競技に含まれると報じています。 こうした種目では、決められた動きを一度成功させるだけでは十分ではありません。見慣れない物を認識し、繰り返し操作し、失敗から立て直し、技術者の助けを借りずに作業を終える能力が試されます。
商用化にはコストと信頼性の壁
中国のロボット産業が急成長している一方で、実用化には課題が残ります。ロイターによると、投資家や顧客の関心は、ロボットがどれほど華麗に動くかから、どれだけ生産性を上げられるか、人間の監督をどの程度必要とするか、導入費用を回収できるかへ移っています。
同記事が紹介した中国の証券会社の試算では、年収8万元の労働者と比べて2年以内に投資を回収するには、保守費を含む産業用人形ロボットの価格を約16万元に抑える必要があります。しかし、民間シンクタンクの推計では、実際の価格は30万~50万元程度です。機械の信頼性、導入後の保守、人材の確保、利用企業の需要をどう整えるかが、今後の普及を左右しそうです。
北京で相次ぐイベントは、中国がロボットの生産と輸出で先行していることだけでなく、産業の評価軸が変わりつつあることも映しています。人形ロボットが本当に社会に定着するかどうかは、展示会で観客を驚かせる能力ではなく、工場や物流拠点、店舗、家庭で安全かつ安定して役に立てるかにかかっています。中国の「ロボット・スーパーウイーク」は、その実力を試す新たな段階の始まりとなっています。
注:為替換算は1元=約22円として概算しています。各社・各機関の統計は調査対象や定義が異なるため、数値は単純比較できない場合があります。
