中国が描く「AIネイティブ」な未来:世界人工知能大会(WAIC 2026)レポート

2026年7月30日 - AI ロボテック

2026年7月17日から20日にかけて、世界最大級のAIイベント「世界人工知能大会(WAIC 2026)」が中国・上海で開催されました。今回の大会は「インテリジェント・パートナー、共に未来を創る」をテーマに、展示面積は過去最大の10万平方メートルを突破。1,100社以上の企業が参展し、3,000点を超える展示品と300以上の世界初公開製品が披露されるなど圧倒的なスケールで、AI分野における中国の存在感と未来へのビジョンを世界に強く印象づける場となりました。

開幕式には習近平国家主席が出席し、基調講演を行いました。習主席は「AIを善導し、人類共有の利益に資する」重要性を強調するとともに、中国がオープンソースAIへのコミットメントを継続し、国際的なAIガバナンスにおいて主導的な役割を果たす姿勢を鮮明にしました。

写真:新華社

「答えるAI」から「実行するAI」へ:AIエージェントの普及

これまでのAIは「質問に答える」ことが中心でしたが、今年のWAICでは「タスクを完遂する」AIエージェントが主役となりました。

AIエージェント・スマホの登場: ZTE傘下のNubia(ヌビア)は、世界初の量産型システムレベルAIエージェント・スマホ「NaviX Ultra」を発表しました。ByteDanceのAIアシスタント「豆包(Doubao)」を搭載し、ユーザーの意図を汲み取って複数のアプリを跨いだ操作を自動で行います。

実務特化型エージェント: 百度(Baidu)が発表した「百度搭子(Baidu Dazi)」は、自然言語での指示だけで資料作成やデータ分析、ウェブ操作を完遂する汎用エージェントとして注目を集めました。

ロボットの社会実装:劇的な実用化の進展

昨年までのロボット展示は「ダンスや格闘」といったパフォーマンスが中心でしたが、今年は「実際に働く」姿が強調されました。

スマート薬局ロボット: アリババ傘下のアント・グループは、独自の具身AI(Embodied AI)モデル「LingBot-VLA」を搭載したロボット薬局を展示。3台のロボットが連携し、注文受付から調剤、梱包までをわずか90秒で完了させます。このシステムは既に上海市内の実店舗で稼働を開始しています。

汎用人型ロボット: Agibot(智元機器人)の「遠征A3 Ultra」は、24時間稼働可能な金牌(ゴールドメダル級)の受付・案内係として発表され、小売や宿泊施設での即戦力として期待されています。

Images: Rednote/语潇Karlie

「国産コンピューティング」による技術自立

米国による半導体輸出規制が続く中、中国は国内のハードウェアを結集させることで、AIに必要な計算資源を確保する戦略を加速させています。

国産10万枚チップの超クラスター: 中科曙光(Sugon)が披露した「曙光8000」は、10万枚の国産AIチップを連携させた巨大コンピューティング・システムです。これにより、科学計算から大規模言語モデルの学習まで、国産インフラのみで完結させる能力を証明しました。

HuaweiのAtlas 950: Huaweiも自社製チップを統合した「Atlas 950 SuperPoD」を展示し、制約を乗り越えるための「力技」とも言える技術集積を見せつけました。

革新を象徴する「10大至宝(鎮館之宝)」

本大会では、数千の展示品の中から技術の独創性と産業への波及効果が最も高いと認められた10社とその製品への最高栄誉とも言える「10大至宝(鎮館之宝)」が選出されました。これは中国のAI戦略が「モデルの巨大化」から「産業への実実装」と「ハードウェアの自立」へとシフトしつつあることを象徴しています。

2026年は以下の製品が選出されました。

分類製品名(企業名)技術のポイントと市場への影響
計算基盤曙光8000(中科曙光)全国産10万枚チップを高速接続した超巨大クラスター。NVIDIA依存からの脱却を象徴。
計算基盤真武M890 × 磐久AL128(アリババ)世界最高水準の算力密度を誇るサーバー。巨大モデル学習のコストパフォーマンスを劇的に改善。
計算基盤中興OEX超ノード(ZTE)特定のチップに縛られないオープンなAIインフラ。構築コストを80%削減。
具身AIロボット智慧薬房(アント・グループ)6万時間のリアルデータを学習した「脳」が、多メーカーのロボットを制御。上海の薬局で実稼働中。
具身AI遠征A3 Ultra(智元/Agibot)24時間稼働可能な金牌(ゴールドメダル級)受付ロボット。少数の学習で新タスクに適応。
エージェント百度搭子(Baidu)自然言語の指示だけで、資料作成からウェブ操作まで完遂する「仕事ができるAI」。
エージェントSTEPX Neo(階躍星辰)アプリではなくAIエージェントが中心の次世代スマホOS。意図を伝えるだけで操作を代行。
デバイス訊飛AI眼鏡(iFLYTEK)世界初の「唇の動き」でノイズを除去するスマートグラス。騒音下での正確な同時通訳を実現。
産業特化大瓦特・雲睿(南方電網)熟練技術者の経験をAI化し、電力網の計画案を自動生成。エネルギーインフラのDXを加速。
産業特化曉鹜™(天鹜科技)AIが蛋白質を設計し、ロボットが実験を行う。創薬などの開発周期を数年から数ヶ月に短縮。

新たな国際秩序:WAICOの設立

政治・外交面での最大のトピックは、上海を拠点とする新組織「世界人工知能協力機構(WAICO)」の設立合意です。

ロシア、ブラジル、インドネシア、パキスタン、カザフスタン、ラオスなどを含む29カ国が署名し、AIの開発協力やガバナンス、技術標準の策定を行う政府間組織が誕生しました。これは、欧米主導のAIルール作りに対抗し、グローバルサウス諸国を巻き込んだ中国主導の新たな枠組みを構築する動きと言えます。

Image: Dao Insights

展望:AIが「日常」に溶け込む未来

WAIC 2026が示したのは、AIが単なるブームを過ぎ、スマートフォンのインターフェース、薬局の労働力、そして国家のインフラとして「当たり前の存在」になりつつある現実です。政治・外交面でも、29カ国が参加する「世界人工知能協力機構(WAICO)」が設立されるなど、中国主導の新たな国際秩序が形作られようとしています。

中国が国家を挙げて構築する「AIネイティブ」な経済圏は、未来のビジネスや生活のあり方にも大きな影響を与える可能性があり、今後も目が離せない状況が続いています。

      

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