中国ミルクティー業界の奇跡:CHAGEE(チャジー)の急成長と事業戦略とは

2024年10月21日 - ビジネス 経済

中国のティードリンク市場で驚異的な成長を遂げているブランド「CHAGEE(チャジー)」。わずか数年で小さな茶店からマルチビリオン企業へと成長し、米国上場を目指すまでに。その成功の裏側と現状についてレポートしました。

驚異的な成長の数字

2017年の小さな茶店から始まったCHAGEEは、2025年3月25日に米国でのIPO(新規株式公開)申請書を提出するまでに至りました。

たった3年で売上を24倍に拡大
利益は25億人民元(約350百万米ドル)を達成
中国全土に6,000店舗以上を展開

世界で最も競争の激しい市場の一つである中国のミルクティー業界で、成し遂げられたその成長ぶりは驚くべきものです。

成功の秘訣

1. 製品戦略:シンプル、標準化、スケーラブル

CHAGEEは2022年から2024年にかけて、「オリジナルリーフミルクティー」(基本的にはティーラテ)に賭けました。この賭けは見事に成功しました。

2022年:総売上の79%がオリジナルリーフミルクティー
2023年:87%に上昇
2024年:91%にまで拡大

さらに驚くべきことに、わずか3つの主力商品が総収益の61%を占めています。特に大ヒット商品の「博雅絶仙(Boya Juexian)」というジャスミンミルクティーは全国的な人気を博し、2023年だけで3億杯、これまでに累計6億杯以上を販売しました。

このドリンクの強みは「シンプル、標準化、スケーラブル」の3点に集約されます。

原材料はお茶、ミルク、シロップのみ
冷蔵設備不要で原材料は常温保存可能
サプライチェーンがシンプル(輸入果物や予測困難な調達がない)
季節に左右されず年間通して安定生産可能

この戦略により、CHAGEEの物流コストは取引総額の1%未満(業界平均は2%)、在庫回転率はわずか5.3日(業界最速)を実現しています。

さらに自動茶抽出機を導入し、1杯の製造にかかる時間はわずか8秒。新人スタッフでもQRコードをスキャンするだけで初日から製造可能という徹底した標準化を実現しました。

2. 管理されたフランチャイズモデル

Chageeの店舗の90%以上はフランチャイズですが、通常のフランチャイズとは異なる「管理されたフランチャイズモデル」を構築しています。

徹底した標準化:原材料調達から飲料調製、スタッフ研修、顧客対応まで、すべての業務を標準化
厳格なフランチャイジー選定:立地選定(CHAGEE内部チームが管理)、最低資本要件、飲食業の経験必須など
店舗評価と現場監督:定期的な査察、4段階の格付け。下位2段階に陥り改善しない場合は、CHAGEEが専門チームを派遣し監督
強力なフランチャイズ契約:1年契約で完全管理権をCHAGEEが保持。違反があれば契約解除も可能

この管理体制は成果を上げており、2024年の店舗あたりの月間平均収益は512,000人民元(約72,000米ドル)に達しました。店舗閉鎖率も非常に低く、2023年は0.5%、2024年は1.5%にとどまっています(競合他社の閉鎖率は2.8%~4.5%)。

3. プレミアムブランド戦略

CHAGEEは高級茶市場に的を絞り、絶好のタイミングで参入しました。

中国の出来立てティー市場は2019年の1,022億人民元(143億米ドル)から2024年には2,727億人民元(380億米ドル)に成長
プレミアムセグメント(17人民元≒240円以上の茶)は2019年の10.9%から2024年には25.9%へと急成長

CHAGEEはこの高級茶市場で次の戦略を展開しています。

プレミアム店舗戦略

60~80平方メートルの洗練された店舗デザイン、一級都市や新一級都市を中心に高級ショッピングモールに出店

健康重視のアイデンティティ

茶葉丸ごと使用、トランス脂肪ゼロ、非乳製品クリーマー不使用、栄養成分表示、GI指数表示、低カフェイン製品など

大衆マーケティングとプレミアム感

2024年にはマーケティングに11億人民元(約154百万米ドル)を投資し、収益の約9%を占める大規模なブランディング展開

今後の課題

急成長の一方で、以下のような課題も見え始めています。

既存店の成長鈍化

店舗密度の増加に伴い、第4四半期のGMV(総取引額)は店舗あたり18.4%減少

主力商品への過度な依存

3製品で総収益の61%を占める状況は、顧客の飽きやライバルの模倣に弱い

競争激化とグローバルリスク

「Jasmine Milk White」や「Grandpa Doesn’t Brew Tea」などの新興ブランドが台頭し、国際展開には関税や規制など多くの障壁が存在しています。

未来への展望

創業者のZheng Junjie氏は世界的な飲料ジャイアントにインスパイアされた、マルチチャネル戦略を描いています。

スターバックスモデル:プレミアム茶カフェ(新しいChagee Now店舗)
ネスレモデル:自宅やオフィス用の自動茶抽出機とカプセルシステム
コカ・コーラモデル:小売流通向けのRTD(Ready-to-Drink)ボトル茶

さらに3つの製品カテゴリーを開発中。

大衆向けのティーラテ
茶愛好家向けの「ティーエスプレッソ」
食感を重視した「ティープチーノ」

CHAGEEは単なるミルクティー販売にとどまらず、店内、外出先、自宅でのティー体験を代表するライフスタイルブランドとなることを目指しています。

まとめ

CHAGEEの急成長は、1つのヒット商品から自動化生産、そして米国IPOへと至るビジネスケーススタディとなるでしょう。後発参入者のアドバンテージを生かし、緻密な実行力と集中力で成功を収めていますが、真の試練はこれからです。中国のミルクティー業界では、永遠にホットなドリンクはないとも言われます。CHAGEEはスターバックスのようなグローバルブランドになれるのか、それとも成長の波は既に頭打ちになりつつあるのか—今後の展開に注目です。


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