中国科学院院士の呉宜燦氏「日本は福島原発汚染水の処分方法を慎重に選択すべき」
人民網日本語版 2021年04月17日11:05
日本の福島原発事故による汚染水の処分問題は国際海洋環境、食品の安全性、人類の安全に関わる。国際社会が一致して認める処分方法とは何か?海洋放出が「最良の選択」なのか?海洋放出は生態環境にどのような計り知れない影響を与えるのか?こうした問題について中国科学院院士、国際原子力アカデミー(INEA)会員の呉宜燦氏に話を聞いた。
■放射性汚染の最終処分責任は汚染者が負うべき
――放射性廃棄物を自然環境に排出することにはどのような害があるか。原子力の安全性は人類の生死存亡に関わる。放射性廃棄物の処分と放出について、どのような国際的規定があるか。
【呉氏】放射性廃棄物は多かれ少なかれ放射性を持つため、その処分と放出には厳格な基準があり、国際的規定、産業規定の要求を厳格に遵守すべきだ。環境や生物に対する放射線の影響に関しては、現在もなお多くの研究作業が行われている。例えばトリチウムは生物に入ると蓄積しやすく、代謝・排出されにくい。たとえ低線量でも生物に損傷などを与える恐れがある。このように、大量の原発汚染水の海洋放出が漁業や海洋生態に与える影響は不確定な面が大きい。日本の人々や周辺諸国を始めとする国際社会では、原発汚染水の海洋放出に反対の声が強い。こうした世論が日本及び近隣諸国の漁業にとって打撃となるのは必至だ。
放射性廃棄物は高レベル、中レベル、低レベル、極低レベル、極短寿命の5種類に区分される。また、物理的状態により固体廃棄物、液体廃棄物、気体廃棄物に分けられる。放射性廃棄物の管理について、法的拘束力ある国際条約は放射性廃棄物処分の主体責任を明確にしている。このうち「原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)」(1994年採択)と「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(放射性廃棄物等安全条約)」(1997年採択)は共に、放射性汚染の最終処分責任は汚染者が負うべきであると定めている。放射性廃棄物を人間のコントロールできない環境に置いた場合、影響を被るのは1つの国や地域ではないことが多く、世界全体に及ぶ恐れさえある。放射性廃棄物の処分については、まず減容化処分を行うのが通常であり、これには多くの方法がある。例えば液体廃棄物なら濾過、吸着、蒸発、水の電気分解などの方法を採用するだろう。減容後の放射性廃棄物を集め、整理した後、再び特定の容器や施設に貯蔵する。良い解決策を見出せない場合、放射性廃棄物は通常、環境中に放出するのではなく、密封貯蔵方式を取る。
■処分計画は十分な国際的検証を経るべき
――実のところ、日本はここ数年の間に計5つの処分方法を検討していた。原発汚染水を直接海洋に放出する方法を最終的に選択したのはなぜか。これをどう評価するか。
【呉氏】報道によると、東京電力は以前、地層注入、海洋放出、水蒸気放出、水素に変化させて大気放出、地下埋設という5つの考えうる案を検討した。東電自身は福島原発の廃炉計画のタイムテーブルを考慮すると、海洋放出と水蒸気放出が現実的条件と合致しており、地層注入、水蒸気放出、地下埋設は技術的にまだ成熟していないと考えた。この2つの案のうち、最終的に日本はコストの最も低い海洋への直接放出を選択した。
報道によると、福島原発事故の汚染水は現在すでに120万トン余りに達している。現時点で公開されている資料からは、1回の放出量や希釈方法、放出頻度、継続期間など、日本の放出計画の詳細はまだ分からない。
処理措置を決定する前に、詳細な計画を透明性をもって公開し、国際的な各方面の十分な意思疎通と検証を経るべきだ。特に近隣の利害関係国と踏み込んだ協議を行い、意見を一致させ、かつ全期間において第三者の監督を受け入れるべきだ。この点は、国際原子力機関(IAEA)の福島原発についての2020年の研究報告でも提言として強調されている。
現在、国際的には放出濃度の制限値と年間放出量の制限値があるだけで、放射性核種の放出総量に関する基準はない。つまり現有の基準制定時には、福島原発事故のような深刻な事故後に人為的で大規模な環境への放出を行うという特殊な状況は念頭に置いていなかったのだ。だが日本は国連海洋法条約の締約国であり、海洋環境を保護・維持する義務があり、国際社会に対して十分な説明を行い、今回の原発汚染水放出が「利用することができる実行可能な最善の手段」であることを証明する必要がある。最終的にどの処分方法を採用するのであれ、国際的な第三者の専門家及び利害関係者の十分なアセスメントと監督を得られるように、具体的な実施と過程を国際社会に十分に公開すべきだ。
■原発汚染水の処理はリスク認知とリスクコミュニケーションをしっかりと行うべき
――日本の菅義偉首相は2020年9月に福島原発を視察した際、処理後の原発汚染水は飲めるのかと尋ねたが、飲めるとの答えを得た後も、関係者から渡された水を飲まなかった。専門的観点からすると、特別な処理を経た原発汚染水は本当に普通に飲むことができるのか?原子力を正しく、慎重に発展させ、安全の確保を前提にしたうえで人類に幸福をもたらすにはどうすべきか。
【呉氏】排出基準と飲用基準は異なる。現在公表されている資料には、処理後の原発汚染水が直接飲めることを証明する証拠はない。原子力の安全は単なる技術的問題ではなく、かねてより社会問題でもあるということを説明しておく必要がある。原子力を発展させる過程では、大衆とのコミュニケーションも非常に重要だ。事実に基づいた上で、各方面及び人々の関心や訴えに正面から答えるべきだ。海洋は人類共通の財産であり、福島原発事故の原発汚染水処理問題は日本国内だけの問題ではない。日本政府は自らの責任を担い、国際的義務を履行し、国際社会の監督下で、自国民、周辺諸国及び国際社会の共通利益にかなう方法を慎重に選択するとともに、民衆を正しく誘導し、リスク認知とリスクコミュニケーションをしっかりと行うべきだ。
現在、原子力を正しく慎重に利用すれば、その安全性は保障できるものとなっている。次世代の原子力システムは非常に安全な設計になり、環境と人にやさしいものになるだろう。福島原発事故の汚染水の処理を注視し、公開性と透明性が高く、環境への影響も小さい処分計画を求めることが必要である以外にも、深いレベルの視点に立って、今後原子力を発展させていく中で技術革新を行い、より先進的な原子炉を開発して、原発事故の発生を防ぎ、放射性廃棄物の発生と排出を根本から減らし、原子力の安全を根源から確保し、原子力の利用が人類により幸福をもたらすようにするべきだ。(編集NA)
「人民網日本語版」2021年4月17日