Pop Martの成功戦略:La BuBuブームから学ぶ中国発IPビジネスの新潮流

2025年6月2日 - 未分類

中国の玩具メーカーPop Mart(ポップマート)が生み出した「La BuBu(ラブブ)」キャラクターが世界的な人気を博し、ビジネス界に新たな潮流を生み出しています。2025年、このキャラクターの人気は日本を含むアジア各国からアメリカ、ヨーロッパにまで拡大し、セレブリティやインフルエンサーを巻き込んだ社会現象となっています。本稿では、Pop Martのビジネス戦略、インフルエンサーマーケティングの活用法、La BuBuを購入する消費者心理、そして中国のIP(知的財産)ビジネスの台頭という時代背景について分析します。

Image : CGTN Europe

Pop Mart のビジネス戦略

1. 小売体験の洗練とブラインドボックス戦略

Pop Martは2010年に小売店としてスタートし、15年かけて顧客体験を洗練させてきました。同社の最大の特徴は「ブラインドボックス」と呼ばれる、中身が見えない状態で販売される商品形態です。この販売方法自体はPop Martの発明ではありませんが、同社はこの形式を徹底的に磨き上げ、顧客が求める「期待感」と「サプライズ」を最大化することに成功しました。

ブラインドボックスは単なる商品ではなく「体験」として位置づけられ、開封時の高揚感を求めて顧客は繰り返し購入します。この戦略により、Pop Martは顧客の継続的な購買行動を促進し、コレクターとしての顧客ロイヤルティを構築しています。

2. アーティストとのコラボレーションによるIP戦略

Pop Martの成功の核心は、独自IPの開発にあります。2024年の売上の85%以上が、アーティストと共同開発した独占商品から生み出されています。同社は2016年、香港のアーティスト・ケニー・ウォン氏と協力して「Molly」キャラクターのブラインドボックスを発売。これを皮切りに、アーティストとのコラボレーションモデルを確立しました。

特筆すべきは、Pop Martが単にキャラクターをライセンスするだけでなく、アーティストと緊密に連携してキャラクターの世界観を構築し、ストーリーテリングを重視している点です。これにより、単なる「かわいいフィギュア」ではなく、ファンが感情的に共感できるキャラクターIPを創出しています。

3. グローバル展開戦略

Pop Martは中国市場での成功を基盤に、積極的な海外展開を進めています。2024年には海外売上が前年比で3倍以上に増加し、総売上の約40%を占めるまでに成長しました(2023年は17%)。2025年末までにアメリカ国内の店舗数を20店舗以上に増やす計画で、これは同国での店舗数をほぼ倍増させる規模です。

海外展開においては、現地市場に合わせたIP開発も重視しています。2023年には初めてアメリカ人アーティスト、リビー・フレーム氏とコラボレーションした「Peach Riot」シリーズを発売。これは北米市場におけるブラインドボックス販売で同社トップのIPとなりました。このように、グローバル市場それぞれの文化的背景や嗜好に合わせたIP開発を進めることで、各市場での受容性を高めています。

4. 多角化戦略

Pop Martはブラインドボックスというトレンドに依存するリスクを認識し、事業の多角化を進めています。フィギュアからぬいぐるみへの商品シフト、アクセサリーカテゴリーの拡大など、商品ラインナップを多様化させています。さらに、テーマパークやデジタルコンテンツ開発など、IPを活用した体験型ビジネスへの展開も進めています。

これらの取り組みは、単なる「ブーム」に終わらない持続可能なビジネスモデルの構築を目指すものであり、キャラクターIPの長期的な価値向上を図る戦略と言えます。

インフルエンサーマーケティングによる成功の秘訣

1. TikTokを中心としたバイラル戦略

Pop Martの成功において、TikTokを中心としたSNS戦略は極めて重要な役割を果たしています。特にLa BuBuの世界的ブームは、TikTokでのバイラル拡散が大きく貢献しました。同社は公式アカウントの運営に加え、インフルエンサープログラムを展開し、世界各国のインフルエンサーとの協業を積極的に推進しています。

TikTokの特性である短尺動画フォーマットは、ブラインドボックスの開封シーンや「レア」アイテムを引き当てた際の感動を共有するのに最適なプラットフォームです。これにより、ユーザー自身が自発的にコンテンツを生成・拡散する流れが生まれ、広告費を最小限に抑えながら大きな露出を獲得することに成功しています。

2. セレブリティ効果の活用

La BuBuの人気は一般消費者だけでなく、リアーナやBLACKPINKなど世界的セレブリティにも広がっています。こうした著名人がSNSでLa BuBuを紹介することで、さらなる認知拡大と信頼性の向上につながっています。Pop Martはこうしたセレブリティ効果を最大限に活用し、公式アカウントでのリポストやコラボレーション企画を展開しています。

特筆すべきは、こうしたセレブリティとの関係構築が必ずしも高額な広告契約によるものではなく、キャラクターの魅力そのものによって自然発生的に生まれている点です。これは、強力なIPの構築がマーケティングコストの削減にもつながることを示す好例と言えるでしょう。

3. コミュニティ形成とUGC(ユーザー生成コンテンツ)の促進

Pop Martは単に商品を販売するだけでなく、ファンコミュニティの形成も重視しています。店舗はただの販売場所ではなく、コレクターが集まり交流する場として機能しています。2024年4月に「Big into Energy Labubu」シリーズを発売した際には、朝6時30分前に2,500人もの人々が店舗に集結するなど、ファンの熱狂的な支持を集めています。

またSNS上でのUGC(ユーザー生成コンテンツ)を促進するための仕掛けも随所に見られます。限定アイテムやレアアイテムの存在は、コレクターたちの間で「自慢したい」という欲求を刺激し、自発的な情報発信を促します。こうしたUGCの蓄積が、さらなる潜在顧客の関心を引き付ける好循環を生み出しています。

La BuBuを購入する消費者心理とトレンド

1. 「ブサかわ」美学の受容

La BuBuの特徴的なデザインは、従来の「かわいい」の概念を覆す「ブサかわ」(醜いけれど愛らしい)美学を体現しています。長い耳と尖った歯を持つモンスターのような外見は、一見すると従来のキャラクター商品の常識に反するものですが、この独特の美学が新鮮さと個性を生み出し、若い世代を中心に強い支持を集めています。

この「ブサかわ」トレンドは、完璧さよりも個性や多様性を重視する現代の価値観と共鳴しており、SNS時代における差別化欲求とも合致しています。La BuBuの成功は、「かわいい」の定義が多様化し、より複雑で多面的な感情を喚起するキャラクターが求められていることを示唆しています。

2. ギャンブル的心理とコレクター心理の融合

ブラインドボックスの販売方式は、ギャンブルに似た心理的メカニズムを活用しています。何が出るかわからない期待感と、レアアイテムを手に入れた際の高揚感は、脳内の報酬系を刺激し、繰り返しの購入行動を促します。実際、この販売方法はギャンブルに類似しているとして、シンガポールでは価値を100シンガポールドル(約77米ドル)に制限する規制が提案され、中国では8歳未満の子どもへの販売が禁止されています。

一方で、コレクターとしての収集欲も重要な購買動機となっています。シリーズ全種類を集めたいという完全主義的欲求や、限定品を所有することによる優越感は、継続的な購買を促す強力な動機となります。Pop Martはこの二つの心理的要素を巧みに組み合わせ、「体験としてのブラインドボックス」という新たな消費文化を創出しています。

3. 「キッドアルト」市場の拡大

Pop Martの主要ターゲットは「キッドアルト(Kidult)」と呼ばれる、大人でありながら子どものような消費行動を示す層、特にZ世代の消費者です。経済的自立を果たした若年層が、自分へのご褒美として、あるいはノスタルジーや癒しを求めて玩具やキャラクター商品を購入する傾向が世界的に強まっています。

この層は単なる「おもちゃ」ではなく「コレクティブル(収集品)」としての価値を重視し、相応の金銭的投資も厭いません。二次流通市場では、希少なLa BuBuアイテムが元の価格の何倍もの値段で取引されており、2025年には初代モデルが約2200万円で落札されるなど、投資対象としての側面も持ち始めています。

中国の時代背景とグローバルIPビジネスの変容

1. 中国IPの国際的台頭

La BuBuの世界的成功は、中国発のIPが国際市場で存在感を増している象徴的事例です。かつて「パクリの国」と揶揄されることもあった中国が、独自のIPを生み出し、グローバル市場で競争力を持つようになった背景には、政府による文化産業支援政策や、デジタル技術の発展による表現手段の多様化があります。

特筆すべきは、Pop Martの時価総額がサンリオを上回り、さらに引き離すようになったことです。これは日本が強みを持っていたキャラクタービジネスにおける中国企業の台頭を如実に示しています。中国のIP企業は、国内市場の巨大さを背景に資金力を蓄え、それをグローバル展開に活用するという戦略を取っています。

2. デジタルネイティブ世代向けのIP戦略

La BuBuの成功は、デジタルネイティブ世代の消費行動と密接に関連しています。SNSでの共有を前提とした商品設計、アンボクシング(開封)体験の重視、コミュニティ形成の促進など、デジタル時代に適応したIP戦略が功を奏しています。

特にZ世代は、単一のメディアではなくクロスメディア的な体験を好む傾向があり、実物のフィギュアからデジタルコンテンツ、テーマパークまで、様々な接点でキャラクターと関わることを求めています。Pop Martはこうした需要を先取りし、IPの多面的な展開を進めています。

3. 文化外交とソフトパワーの側面

中国政府は文化産業を重要な国家戦略と位置づけ、自国発のIPの国際展開を後押ししています。La BuBuの成功は、中国のソフトパワー向上にも貢献しており、政府の文化戦略と民間企業の商業的成功が相乗効果を生み出している好例と言えます。

例えば、タイ国政府観光庁はタイ・中国関係樹立50周年を記念し、Pop Martと共同でタイ文化のエッセンスを取り入れた「タイ版La BuBu」を企画するなど、文化交流の手段としても活用されています。こうした取り組みは、単なる商業活動を超えた文化外交の一環としても機能しています。

ライバル企業への示唆

1. IP開発における差別化とストーリーテリング

La BuBuの成功から学ぶべき最大の教訓は、差別化されたキャラクター設計とストーリーテリングの重要性です。従来の「かわいい」の概念にとらわれず、新たな美学や価値観を取り入れたIP開発が求められています。また、キャラクターの見た目だけでなく、背景ストーリーや世界観の構築にも注力し、ファンが感情的に共感できるIPを創出することが重要です。

2. デジタルマーケティングとリアル体験の融合

Pop Martの成功は、デジタルマーケティングとリアル体験の効果的な融合にも起因しています。SNSでのバイラル拡散を促進しつつ、実店舗での体験価値も高めるという両輪戦略は、日本企業にとっても参考になるでしょう。特に、ユーザー自身が自発的に情報発信したくなるような「シェアしたくなる体験」をデザインすることが、現代のマーケティングにおいて重要です。

3. グローバル視点とローカライズの両立

Pop Martは中国発のIPでありながら、各国市場に合わせたローカライズ戦略も展開しています。日本企業も、自社IPのグローバル展開において、普遍的な魅力を維持しつつ、各市場の文化的背景や嗜好に合わせた調整を行うことが求められています。特に、現地アーティストとのコラボレーションなど、各市場に根ざした創造的アプローチは、グローバル展開の成功確率を高める有効な手段と言えるでしょう。

まとめ

Pop MartとLa BuBuの成功事例は、現代のIP(知的財産)ビジネスにおける新たな潮流を示しています。ブラインドボックスという販売形態の洗練、アーティストとの緊密な協業によるIP開発、SNSを活用したバイラルマーケティング、そして「ブサかわ」美学の受容など、複数の要素が組み合わさることで前例のない成功を収めました。

また、この事例は中国発のIPがグローバル市場で存在感を増している時代背景も反映しており、日本を含む各国のIP企業にとって重要な示唆を含んでいます。デジタル時代における消費者心理の理解と、それに基づいた戦略的なIP開発・マーケティングが、今後のグローバルIPビジネスの成否を分ける鍵となるでしょう。

      

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