中国で恋愛シミュレーションゲームが大ヒット 「乙女心」を鷲掴み
春節(旧正月、今年は2月16日)を目前に控えた今、中国で女性向けの恋愛シミュレーションゲーム「恋与制作人」が予想外の大ヒットとなっている。リリースから2週間もしない間に人気ゲーム「王者栄耀」を抜き、App Storeの無料ゲームカテゴリーで2位に入った。バーチャル彼氏に多くの女性が虜になり、心をときめかせている。中国新聞周刊が報じた。
女性の心を鷲掴みにした理由は?
このゲームでは、ユーザーは4人の男性と交際、デートでき、電話をしたり、メールをしたり、モーメンツにコメントを書き込み合ったりできる。男性がクールな声で、食事や映画に誘ってくれる時、ユーザーは現実の世界にいる人に誘われているような気分になれる。また、いつでも、すぐにメールの返事をくれ、肝心な時にもいつでもすぐに現れてくれるため、「本当の彼氏」よりいいかもしれない。さらに、街に出て食事や買い物をする時のお金は全て「彼氏」もちだ。
辛迪さんは、中学の時から日本のアニメが好きになったアニメファン。今は春節前で、何かと物入りの時期で、懐事情は厳しいものの、「恋与制作人」にすでに1000元(約1万7000円)をつぎ込んだ。しかし、他の気前のいい「彼女」たち比べると少ないほうだ。ネット上の掲示板や微博(ウェイボー)などを見ると、すでに6000元(約10万円)、ひいては2万元(約34万円)をつぎ込んだという人も少なくない。そして、全ての機能が使えるようにするために、4万元(約68万円)をつぎ込んだという人までいる。「お金はかかるけど、大きな満足感が得られるし、現実の世界で恋愛するより楽しいかもしれないわ。相手に合わせる必要もないし、無駄な時間をいっぱい費やす必要もないしね」。
「恋与制作人」は乙女ゲーム。乙女というのは未婚の14-18歳の女性で、大人の女性へと変化している「お年頃」。その恋愛にあこがれる淡いロマンティックな妄想と期待が、日本独特の「乙女文化」を誕生させた。バーチャル恋愛が体験できる「乙女ゲーム」はこの文化の中心的存在だ。
乙女ゲームの始まりといわれるのが、1994年に登場した恋愛シミュレーションゲーム「アンジェリーク」で、同市場の規模は今では150億円以上となっている。日本では毎年、数十種類の乙女ゲームがリリースされる。「恋与制作人」は、中国の多くの女性の心も鷲掴みにし、長い間影を潜めていた女性消費市場が刺激されている。
プレイヤーに恋愛にできるだけはまってもらおうと、ゲーム開発会社・Paper Studioは、バーチャルなメールや電話、モーメンツの機能を盛り込み、現実の世界の情報をリアルタイムで複合させている。例えば、1月22日、中国各地が雪が舞う天気となった。すると、その日の朝、プレイヤーのスマホには、「彼氏」から「起きた?30分後に迎えに行くから、準備してて」、「朝に雪がやんだばかりだから、道路には雪が積もっていて、歩いて会社に行くと危ないよ」などのメッセージが送られた。このようなうれしくて思わずにんまりしてしまう「気遣い」が、SNS上で「恋与制作人」が女性たちの間で話題になっている理由で、女性らが財布のひもを緩めて、もっとキュンキュンできる機能を使いたいと思うようになる理由でもある。
男女にかからず「乙女心」がある
2017年、中国では「女性経済(社会で女性が独立することにより女性の消費が盛んになっている状態)」が急成長し、各企業・ブランドが「乙女」をくすぐる商品やサービスを続々と打ち出した。例えば、携帯メーカー「美図(meitu)」は美少女戦士セーラームーンとコラボしたスマートフォン「M8」を台数限定で販売し、歯磨き粉を生産する「Colgate」は「ハート」入りのかわいい歯磨き粉を打ち出した。各企業は女性の心を射止める方法を会得し始めているようで、Colgateの歯磨き粉も透明の歯磨き粉にピンクの小さなハートが入っているだけで、特別な薬効などがあるわけではないものの、そのかわいさが人気となり、大ヒット商品となった。淘宝の公式ショップに寄せられている2万7000件のコメントで、最も多く使われている言葉が「乙女心」だ。
各企業・ブランドが「乙女」がそこまでして「乙女心」に注目する理由は、その背後に巨大な女性市場と女性たちの旺盛な購買意欲があるからだ。17年末、第一財経商業データセンター(CBNData)と通販サイト・天猫が共同で発表した「17年度輸入消費統計報告」によると、13-17年、天猫のぜいたく品市場において、90後(1990年代生まれ)が安定した成長、95後(95-99年生まれ)が急速な成長を見せた。今では、中国の越境輸入小売りのアクティブユーザーのうち、90後と95後の占める割合が50%となっており、スキンケア商品の購入が最も多いグループだ。
90後は出生率がこれまでで最も低い世代であると同時に、一人当たりの国内総生産(GDP)が異例の成長を続けるという特殊な時代に育った世代で、物質的には非常に豊かであるにもかかわらず、孤独感を感じている。そして、インターネットがこの世代の若者に十分すぎる選択肢と可能性を与えている。消費が高度化するにつれ、それらの若者たちは真新しいものを好み、「顔面偏差値」の高いものにお金を使うことを惜しまない。また、個性的なものを好み、自分を大切にする。
しかし、そのような女性の心を掴むのは決して容易なことではない。この点について、92年生まれの胡辛束さんは「専門家」と言えるだろう。15年にSNSの公式アカウントを開設した彼女は毎日午後10時22分に、「乙女心」に満ちた文章を投稿する。「乙女心」をうまく表現したその投稿は、特徴がはっきりとしている、コアなフォロワーを集めている。それらフォロワーは、16-25歳の一、二線都市で生活する女性で、中には大学生、または、大学を卒業して2-3年しかたっていない働き始めの若い女性もいる。「そのような女性は昼間はとても明るく振る舞っているかもしれないが、夜になると、憂鬱な気分に悩まされている」。それらの女性の心をうまく掴んだ胡さんのアカウントには、広告を掲載してほしいという企業が殺到しているという。
「人によって、『乙女心』に対する理解は違う。日本人は、ロリータやお姫様を連想するかもしれないが、中国人は内向的で、かわいいものと出会った瞬間に初めて『乙女心』が現れる。また、男性の多くにも『乙女心』がある」と胡さん。
Paper Studioの責任者によると、「恋与制作人」を製作した目的は、女性の恋愛に対するニーズを満たすためでは決してなく、他人からの関心を集めたいという人としての最も基本的な欲求を満たすためだという。「現代の女性は、世間の厳しさを経験しても、あまくロマンチックな夢を求める『乙女心』を忘れてはいないから」。